2019年以来となるサンディエゴでのウィンターミーティングで、ここまで空振りだらけだったパドレスがついに意中の人を射止めました。
そう、ザンダー・ボガーツの獲得です。
ボガーツ獲得の経緯
レッドソックス時代のボガーツ
南米にあるオランダ王国の構成国アルバ出身のボガーツは、16歳の時にレッドソックスと契約。
トッププロスペクトとして頭角を現すと、2013年にはプロスペクトランキングで全体トップ10に入るほど期待をされ、第3回WBCにはマイナーリーガーながらオランダ代表に選出されました。
さらにこの年は8/20に弱冠20歳にしてメジャーデビューを果たし、ポストシーズンでも出場、いきなりワールドシリーズ制覇にも貢献しました。
2014年から不動のレギュラーとなった彼は、2015年にはシルバースラッガー賞、2016年にはオールスターに選出されるなど順調にキャリアを伸ばし、2018年からは毎年MVP投票に名前が出る活躍を見せています。
2022年は首位打者こそ逃したもののAL3位の打率を記録するなど、打撃面においては直近数年間は安定して高いパフォーマンスでした。
FA前の2019年に6年$120Mの契約延長に合意しましたが、その契約には2022年オフのオプトアウトが含まれていました。
そのためレッドソックスはこの一年間ボガーツとの契約延長の道を探ってきましたが、デバースとの契約も考えなければならないためか、彼が満足するオファーを出すことができずついに今回オプトアウトしてFA市場にうってでることになったのです。
ボガーツ獲得への狂騒
そもそもタティスとキムという2人の素晴らしいSSを保有しているパドレスは、コレア、ターナー、ボガーツ、スワンソンという4人のビッグネームが揃う今回のFA市場でSSを狙うことはないはずでした。
本来の補強ポイントは①SP、②1B、③OF、それと必要に応じてリリーフを獲得することで穴が埋まるはずでした。
実際スアレス、マルティネスを残留させた後本格的に狙ったのはアブレイユでしたが、その最中に突如出てきたのがパドレスがボガーツを狙っているという報道。
パドレスファンにとっては寝耳に水なトリッキーなターゲットでしたが、その後アブレイユ獲得には失敗しターナーも候補に入っている報道が出てきます。
そうしてサンディエゴでのウィンターミーティングが始まり、続々と大物のビッグディールが成立する中、フィリーズが11年$300Mという超大型契約でターナー獲得に成功しましたが、実は彼にはパドレスもオファーを出していました。11年$342Mというフィリーズ以上の数字でしたが、元々東海岸希望とされていたターナーにとっては、州の税率の違いから手取り額があまり変わらなかったこともあってフィリーズの方が魅力的だったようです。
ターナーに振られたパドレスが次に狙ったのは今オフ一番の目玉ジャッジ。
こちらはヤンキースとジャイアンツの一騎打ち状態でそもそもパドレスは蚊帳の外だったはずですが、ターナーを逃したことで今度はその資金をジャッジにつぎ込むことにします。
サンディエゴにやってきたジャッジをペトコパークに連れていき10年$400Mという歴史的オファーを提示したようです(実際は話をしただけで具体的な数字のオファーはしていないという説もあります)。
しかしこちらも9年$360Mを提示したヤンキースへの残留が決まりました。ジャッジ自身もヤンキース残留自体は望んでいたことなので、当て馬状態のパドレスがとれなかったのは仕方ないかもしれません。
ターナー、ジャッジと2日間で立て続けに振られたパドレスが最後に狙ったのが最初に名前が挙がっていたボガーツ。
数日間で次々とビッグネームにアタックして振られては次にいくパドレスは節操なしと言われても仕方ないかもしれません。しかし、結果的にこれが功を奏し3度目の正直で大物獲得に成功しました。
その額はなんと11年$280M!
驚きました。すごく驚きました。
ボガーツを獲得したことではなく11年もの長期契約となったことに。
オフシーズン開幕時点でボガーツの契約はだいたい6-7年と予想されていました。大盤振る舞いしたとしても最大8年ほどかと思っていましたが、まさか11年という数字を見ることになるとは。
しかしターナーにも11年規模を出したと聞いた時から予想すべきだったのかもしれません。
対抗馬だったレッドソックスが出したオファーは6年$160M程だったようです。
単年あたりは$26.6Mで、$25.5のパドレスよりやや高い水準ではありますが、契約期間の長さが圧倒的に違います。
敏腕代理人ボラスがついているボガーツ側の要求はおそらくは年平均$30Mに近い規模だったはずですが、パドレスとしては贅沢税への影響を抑えるために年あたりの金額を抑え、その分期間を長めにとることで合意したと想像できます。
ボガーツ加入の影響は
ボガーツが加入したことで、パドレスにはSSがタティス、キム、ボガーツの3人揃うことになります。いずれもレギュラー〜オールスター級です。
こんな状況でもボガーツを獲得したかったのは、打線のアップグレードを狙ったのに加え、来オフにオプトアウトする可能性が高いマチャドの後釜に据えるためだと思われます。
ボガーツはマイナー時代とメジャー昇格後に少し3Bを守っていたことがあり、実際プレラーGMは代理人のボラスにSS以外を守る気があるかを問い合わせたようです。
現時点ではパドレスはマチャドがオプトアウトした場合は再契約を狙うつもりがあると報道されていますが、あまりにも市場が高騰するようなら手を引かなければなりませんし、その場合はボガーツを完全に3Bにコンバートしてしまうのが有力な案になります。
とはいえ2023年シーズンに関してはマチャドがいるため、現有戦力のまま開幕を迎えれば、SSボガーツ、OFタティス、2Bキムというポジションになると見込まれています。しかしパドレスはさらなる補強を狙うつもりで、価値の上がっているキムやオールスター2Bのクロネンワースあたりはトレードの駒になる可能性があります。
ボガーツに11年0Mは高いが・・・
この契約が妥当なのかと聞かれれば、明らかに払いすぎだと言えます。
これはタティスにも言えることですが、打てるSSということでこれまで評価が高かった選手がコンバート前提、それも両翼やホットコーナーなどの打撃型ポジションになるのは大きく価値を毀損します。
ボガーツもタティスもそもそも守備のいい選手ではありませんが、コンバートした時点で今結んでいる契約は割高になります。
つまり、2024年以降どちらかを完全にコンバートさせることでそのどちらかはもったいない状態になるわけです。それがチームで唯一今後10年以上の契約を結んでいる2人だとすればチーム編成が下手だと思われても仕方ありませんね。
ただ、割高を承知でも打線強化のために穫れる選手に資金を投入せざるを得なかったという事情もあります。
同地区にドジャースという巨大戦力があり、現時点では将来性もあるとは言い難いパドレスに有力選手、それも打者に来てもらうためには札束をちらつかせる以外ないでしょう。実際ジャッジやターナーはヤンキース以上のオファーがあってもパドレスにはなびかなかったわけですから、これが今のパドレスの戦い方です。
また、ボガーツ獲得の是非以外にも重要なことが一つ。
本来はスモールマーケットであるパドレスは、これだけプロスペクトを出し尽くした時点で2024年シーズンの出来如何では一時再建期に突入する可能性もありました。
そのためにこれから2年間で必ずワールドシリーズをとらなくてはならない状況なのですが、ここに来て10年以上の契約で大物を引っ張ってきたということは、しばらく再建期に戻るつもりはないという意思表明でもあります。特にボガーツはノートレード条項がついていますから、トレードしたくても本人が望まぬ限り出来ません。
私はこの契約が成立した時に流石にソトとの契約延長の資金はないかと諦めかけましたが、報道によればどうやらそれでもまだソトを諦めてはいない様子。サイドラーオーナーは資金をふんだんに使ってでもパドレスをワールドチャンピオンにしたいようです。実際に契約が成立するかどうかはともかく、その姿勢はパドレスを応援していく上で好材料以外の何物でもありません。
やはり毎年コンテンダーとして戦うほうが楽しいのです。
今後11年見合う成績が残せるか
30歳のボガーツが今後11年今と同じ成績を残せる可能性はかなり低いでしょう。
単純な加齢による衰え以外に懸念点は2つあります。
1つは、これまでのホーム球場フェンウェイ・パークを離れる影響です。
彼の通算成績はホームで.312/.375/.497なのに対し、アウェイでは.271/.338/.420とOPSにして1ポイント以上の差があります。
投手有利と言われるペトコ・パークにおいてはさらに数字が落ちる可能性はあります。
もう1つは、守備で足を引っ張る可能性です。
フルシーズンプレーするようになった2014年から2021年まで、彼は8年連続でDRSマイナスを記録し続けました。同じく守備難のデバースと組む三遊間はMLBワーストクラスの内野守備だったと言えるでしょう。
もちろん彼自身も守備に課題があることは理解しており、2022年は初めてあらゆる守備指標でプラスを記録するなど大きく改善させました。
ただ、これが一過性のものなのか、今後も高い守備貢献度を維持してくれるのかは不透明で期待しすぎるわけにはいきません。
エラーはそんなに多くないのでタティスよりは見ていてストレスは少ないかもしれません。
もちろん、ボガーツには懸念点だけではなく優秀な点もありますのでそれも紹介します。
まず、頑丈さでは現役屈指です。
彼がフルシーズン1年目だった2014年から2022年までの出場試合数は1246試合。これは現役選手の中では7位で、SSとしては1位の数字です。
毎年安定して150試合前後に出場し、短縮シーズンを除いて最も出場試合数が少なかった2018年でも136試合なので内野手としては現役最高クラスの頑丈さと言えます。
デグロームのように健康なら史上最高級のパフォーマンスでも怪我が多いようでは長期契約のリスクは跳ね上がります。その点ボガーツは無事是名馬のタイプの選手で試合には数多く出てくれるだろうと安心できます。
そしてキャリア通算打率.292という数字が物語る通り現役では屈指のハイアベレージな打者です。
この打低時代に3割前後の打率を残せる選手はそういません。
それなりの長打力も併せ持つことから、SSというポジションの中では打者として最高峰であるのは間違いありません。
加えて、対左投手のパフォーマンスの高さも見過ごせません。
2021年に続き2022年もパドレスの対左投手のパフォーマンスはよくありませんでした。
右打者の中で高打率を残したのはノラやドルーリーくらいで、そのドルーリーもFAになってしまいました。
頼みのマチャドもホームランこそ出ていたものの対右ほど洗練されたパフォーマンスではありませんでしたし、ソトに至っては左相手には壊滅的です。
その点ボガーツはキャリア通算の対左打率が.312、2022年に至っては.382とカモにしていました。
パドレスの宿敵ドジャースにはカーショウやウリアスといった左の好投手がいることからも、これが大きな助けになるのは間違いありません。
また、ホームランはもしかしたらレッドソックス時代よりむしろ上がるかもしれないという希望的観測も持っています。
スタットキャストにより記録が始まった2016年以降ボガーツが実際に記録したホームランは141本ですが、もしも全試合ペトコ・パークでプレーしていたら150本打てたというデータが出ています。彼はプルヒッターではないものの長打に関してはほとんどがレフト方向で、これまでグリーンモンスターに阻まれて二塁打になった打球がホームランに変わるかもしれません。一方で二塁打は減少する可能性が高いと思われます。
ただこれに関しては2022年の打球傾向が気になるところで、本塁打が少なかった2022年はバレル率が例年の8%超から6.5%に低下しました。そもそも本塁打になる打球自体が少なかったということで、これが現在のボガーツの打球傾向なのだとしたらパドレスでも本塁打は少ないままかもしれません。
だいたい私の中では、来季以降のボガーツは.280/.350/.450前後を安定的に残すイメージなのかなと思っています。
この数字は$300M近い契約をとった野手としてはかなり物足りず、もし3Bコンバートになるのならマチャドよりも一段格落ちです。そうなってくると一番注目したいのは守備貢献度で、SSで今季と同等、あるいは3Bでも平均以上の守備パフォーマンスであればいい契約になるのかもしれません。もし守備が壊滅的なら・・・
ということで来季のボガーツに関しては打撃よりも守備に注目して見たいと思っています。