菊池雄星 昨年までと何が変わった?

MLB
MLB.comより引用

今回は今季ここまで絶賛プチブレイク中のマリナーズ菊池雄星(30)について、その活躍ぶりと成長ぶりを解説していこうと思います。
高校の後輩である大谷翔平や、優勝候補パドレスで活躍するダルビッシュと比較するとあまりスポットライトが当たっていない菊池ですが、苦しんだデビューイヤーや昨季と比較すると実は大きな成長を遂げています。

今季と昨季の基本スタッツ比較

昨季の基本スタッツはこちら。

2020年 9試合 2勝4敗 防御率5.17 47回 奪三振47 WHIP1.30

それに対して今季の基本スタッツがこちら。

2021年 14試合 5勝3敗 防御率3.34 86.1回 奪三振87 WHIP1.04

防御率とWHIPが昨季より大幅に向上していることがわかります。
1試合あたりの投球回数も 5.2回 → 6.15回 とローテーション投手に相応しく、しっかり6回を投げ切れる投手になっています。

投球内容はどう変わった?

球速

デビューした2019年の平均球速は92.6mph(約149km)でした。
日本では最速クラスの左腕としてならしていた菊池ですが、MLBの先発投手としてはごくごく平均的な部類に落ち着いてしまっていたのです。

ところが昨季球速が大幅に上昇し、平均95.1mph(約153km)と一気に大台に到達します。
この時点で実は一部では菊池を今季ブレイク候補とする声も少なくありませんでした。後述するセイバーメトリクスの指標に加え、投球における重要なファクターである球速が大幅に向上したからです。

そして今季はさらなる進化を遂げ、平均95.8mph(約154km)と、先発左腕最速クラスになっています。
今季規定投球回に到達している先発投手の中で、この数字はMLB全体11位
平均95mph(約153km)で全体17位のダルビッシュをも上回っていますし、左腕に限れば今季ブレイク中のカルロス・ロドン(CWS)の平均95.9mphに次いで惜しくも2位です。
これはもはやMLB最速の先発左腕と言っても過言ではありません。

ちなみにMLB最速はもちろんジェイコブ・デグローム(NYM)で、平均99.2mph(約160km)ととびぬけた存在です。一応言っておきますが、リリーフではなく、先発投手でこの数字です。

*球速データはFangraphsを参照しています。

速球の回転数(スピンレート)

速球を語る上で近年重要になっているのは球速だけではありません。
投手の速球の高速化が進みつつあると同時に、技術の進化により回転数が重視されるようになってきました。
今季大きな話題になっている粘着物質は、回転数を上げる効果があるとされており、取り締まり強化後に回転数が激減した投手は厳しい目にさらされています。

菊池の4シームの回転数は下記のように少しずつ右肩上がりになっています。

2019年 2096 → 2020年 2178 → 2021年 2297

6/21より粘着物質の取り締まり強化が始まり、ちょうど本日菊池の同僚ヘクター・サンティアゴが不正使用により退場処分を受けました。取り締まり強化以降第一号の摘発者となります。本人は汗とロジンしか使っていないと不正使用を否定しています。科学検査の結果ではなく、あくまで審判団のその時の判断での処分となりますので、どちらの主張が正しいのか現時点ではわかりません。今回対象となったサンティアゴのグラブは今後詳細な調査がされるということなので続報を待ちましょう。

菊池は6/18に4シームの回転数が2098まで激減し、6/25にも2111と今季の平均を大きく下回っています。これが取り締まり強化の影響なのかどうかは不明ですが、あらぬ疑いをかけられないようにもう一度2200オーバーの回転数をコンスタントに記録してもらいたいものです。

*回転数データはBaseball Savantを参照しています。

セイバーメトリクスの指標

球速や回転数は例年より向上しているのに対して、実はセイバーメトリクスの指標は昨季より悪化しています。

2019年 防御率5.46 FIP5.71 xFIP5.18 xERA5.13

2020年 防御率5.17 FIP3.30 xFIP3.78 xERA3.42

2021年 防御率3.34 FIP4.32 xFIP3.48 xERA4.04

上述の、一部からブレイク候補と位置づけられていた根拠がこれらの指標でした。
昨季の防御率はデビュー1年目とさほど変わりませんでしたが、1年目と比較すると奪三振率や被本塁打率が大幅に改善されていました。
つまり、防御率は運悪く酷いものの、その内容は大きく向上していて、運の振り戻しがくれば好成績を残せる、と評価されていわけです。

しかし、今季はそれらの数値もやや悪化傾向にあります。
その最大の要因は被本塁打率です。
今季14試合に先発登板して本塁打を打たれなかった試合はわずか4試合。複数本打たれたのは4試合あり、1年目に比べればマシですが、昨季よりはかなり本塁打されやすくなっています。
その結果被本塁打率は 0.57 → 1.46まで悪化。
奪三振率は変わらず四球率は改善されているため、やはり被本塁打が今後の課題となりそうです。

投球割合

菊池の投球割合が大きく変わったのは、実は今季からではなく指標面で大きく改善された昨季からでした。

2021年 カッター(40.2%) 4シーム(31.9%) スライダー(19.8%) チェンジアップ(8.1%)

2020年 カッター(39.4%) 4シーム(37.0%) スライダー(16.0%) チェンジアップ(6.3%)

2019年 4シーム(47.3%) スライダー(27.1%) カーブ(14.9%) チェンジアップ(7.3%)

3年間通してチェンジアップの割合はほとんど変わりがないものの、それ以外に大きな変化がでています。
2019年には4シームを基本にスライダー、カーブ、チェンジアップという日本人投手のオーソドックスのような投球スタイルでしたが、2020年からは4シームを減らしてカッターを多投するようになりました。
7色の変化球を持つダルビッシュも、自分の球種の中で最も重要なものはカッターであると語っており、近年の日本人投手がMLBで成功するためにはカッターは最重要球種となっているのかもしれません。

*投球割合データはFangraphsを参照しています。

初球ストライク率

昨季と大きく変わったのが初級ストライク率です。

2019年 初球ストライク率59.2% 四球率2.78

2020年 初球ストライク率50.5% 四球率3.83

2021年 初球ストライク率63.6% 四球率3.13

こうしてみると初級ストライク率と四球率にはしっかりと相関関係があることがわかります。
一見すると2019年が非常にいい数値のように見えますが、奪三振率も被本塁打率も非常に低水準であった2019年は、ストライクゾーンに投げることを重視していた結果、あまり四球を出さなかったということでしょう。
球威を重視した2020年にはストライク率、四球率がともに悪化したものの、その他指標が2019年に比べて大きく向上しました。
さらにストライク率も両立できるようになったのが今季です。
球威のある投手はストライクゾーンに速球を投げて早いうちに有利なカウントを作り、追い込んでから変化球で三振をとるというスタイルが一般的です。今やMLB屈指の球速を持つ今季の菊池はそれができているということです。

QS率

安定感のある投手の指標として使われるQS(6回3失点以内)は、今でも軽視することはできません。
日によってパフォーマンスが上下する投手よりも、大活躍はしなくても毎回試合を壊さずに長いイニングを投げることができる投手の方が、年間通しての信頼感があります。

2019年 先発登板32 QS12 QS率37.5%

2020年 先発登板9 QS12 QS率33%

2021年 先発登板14 QS10 QS率71%

今季のQS10というのはダルビッシュと並んでMLB全体12位の数字。QS率と相まって十分エース級といっていい結果です。
8回以上投げた試合はないものの、5回に満たなかった試合も2試合しかなく、毎回6-7回を2,3失点で抑えるというワークホースのような数字が出ています。

マリナーズ先発ローテーションでの今の立ち位置は?

今季3試合以上先発した投手を先発登板試合数順に並べるとこんな感じ。

菊池雄星 14試合 5勝3敗 防御率3.34 86.1回 87奪三振 WHIP1.04

クリス・フレクセン 13試合 6勝3敗 防御率3.87 74.1回 50奪三振 WHIP1.25

ジャスタス・シェフィールド 13試合 5勝7敗 防御率5.69 68.0回 54奪三振 WHIP1.66

ジャスティン・ダン 11試合 1勝3敗 防御率3.75 50.1回 49奪三振 WHIP1.31

マルコ・ゴンザレス 9試合 1勝4敗 防御率5.10 47.2回 42奪三振 WHIP1.36

ローガン・ギルバート 8試合 2勝2敗 防御率4.25 36.0回 39奪三振 WHIP1.08

ロバート・ダガー 11試合(先発4) 0勝2敗 防御率6.45 22.1回 19奪三振 WHIP1.66

ニック・マーゲビシャス 5試合(先発3) 0勝2敗 防御率8.25 12.0回 12奪三振 WHIP1.67

マリナーズの先発投手陣は、上記数字を見るとわかる通りかなり悲惨な状況。
出戻りでローテの一角を担うはずだったジャームズ・パクストンは今季1試合だけ投げてトミー・ジョン手術。エース格のマルコ・ゴンザレスは一時期離脱。その主力故障のローテーションの中で菊池とフレクセンだけが気を吐いていました。
もちろん現在のエース格は菊池。文句なしのエースと呼ばれるためにはフルシーズン通して活躍する必要がありますが、マリナーズにとって今最も重要な投手であることは間違いないでしょう。

菊池の今後の課題と展望

今後マリナーズで絶対的エースとなるのに必要となるのは、やはり被本塁打率の改善でしょう。
毎試合のように打たれる一発の頻度が低くなれば、防御率2点台も見えてきます。

またチームがア・リーグ西地区3位の41勝38敗とやや微妙な立ち位置。
再建モードというわけでもないので現状は菊池のトレードの可能性もまだ薄いでしょう。
菊池は2022~25年までの4年分の契約が残っているのですが、2023年からは全てがチームオプション。2022年はチームオプションとプレイヤーオプションの両方があり、この調子でシーズンを終えればチームオプションが更新されることは間違いないでしょう。
来季は安泰としても2023年からの契約はここからの1年半にかかっていますから、とにかく今季エース格として一年戦った実績を積んでおくことが必要です。

今季に関して気になるのはやはり菊池が粘着物質取り締まり強化の影響を受けるのかどうか。
上述したように直近2試合の回転数が減少したことは気になりますが、取り締まり関連で騒がしくなった6月は結果的に4試合で防御率1.90でかなりの好投を見せました。
影響がないのであれば、まだまだ数字を向上させそうな気配があります。

大谷のインパクトがあまりにも強すぎて活躍しているのにあまり注目されないのは残念です。
これまでの日本人先発投手では珍しいパワーピッチャーとして通用している選手ですから、今後も彼の躍動ぶりには大いに注目していきたいところです。

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