MLBの新たな怪物 エリー・デラクルーズとは

MLB

シンシナティ・レッズに、いやMLBにまた新たな怪物が誕生しました。
その名もエリー・デラクルーズ(Elly De La Cruz)
今はまだメジャーデビューしたばかりですが、彼は2020年代を代表するスーパースターになるのではなかろうかと考えているので、今回は彼がどんな選手なのか、どういう軌跡をたどってきたのかというのを紹介したいと思います。

飛びぬけた3つのツール

恵まれた体格

エリー・デラクルーズ(21) SS/3B

身長:6フィート5インチ(196cm)
体重:200ポンド(90kg)
右投両打

196cmという恵まれた体格に、規格外の身体能力が備わっています。
将来的には真の5ツールプレイヤーになる可能性があると評価されているのですが、現時点で間違いなくMLBトップクラスだと言えるツールがパワースピードの3つです。

パワー

今季のマイナーリーグ(AAA)で彼の打撃成績は

打率.297 12HR 36打点 出塁率.398 OPS1.031

確かに凄い数字なのですが、このHR数だけではそのパワーがどれだけ規格外なのかいまいち伝わってきませんよね。
そこで今季彼が最も活躍した試合の一つを紹介します。

このツイートの通り、彼はこの試合でHR2本と二塁打1本を放ちました。
その際の打球速度は二塁打: 118.8mph(191.2km)HR: 117.1mph(188.5km)HR: 116.6mph(187.6km)だったのですが、打球速度の計測が始まった2015年以降、1試合で116.0mph(186.7km)以上の打球を3本放った選手はMLBにおいて誰一人いません。
それどころか、1試合で116.0mph以上を3本記録した”チーム”すら存在しないのです。

さらに、彼が放った118.8mphの二塁打は、今季のマイナーリーグ最速であるばかりか、現在のレッズの球団記録である2019年アキーノ(現中日)の118.3mph(190.4km)をも上回っています

また、スイッチヒッターである彼は上述の117.1mphのHRを右打席から、116.6mphのHRは左打席から放っています。
こちらも2015年の計測開始以降、1試合で両打席からHRを放ち、なおかつ両方とも115mph以上だったMLBの選手はいません。
左右で打撃スタイルが異なったり、片方の打席ではパワーのパフォーマンスが落ちるスイッチヒッターは珍しくありませんが、デラクルーズは両打席ともにそのパワーを如何なく発揮する真のスイッチヒッターというわけです。

この規格外のパワーは既にメジャーでも発揮されており、デビュー戦では112.0mph(180.2km)の二塁打を放ちましたが、これは今季のレッズの選手が放った打球の中で最速。
そして翌日の初HRは114.8mph(184.8km)で、これまた自身の記録を塗り替えてしまいました。
デラクルーズはデビューから2日で3安打しか放っていないのに、今季のレッズの打球速度ランキング1,2位を独占してしまったのです。

スピード

パワーのインパクトが凄すぎるのですが、実は彼のツールでパワー以上に高く評価されているのがスピードです。
MLB公式のスカウティングレポートではパワー60(低すぎる気がしますが…)に対してスピードは70の評価、Baseball Americaにおいてもパワー70に対してスピード80(最高評価)と、スピードは彼の最高のツールとして認識されています。

それでは、こちらもデータを用いてその異次元のスピードを紹介しましょう。
デビュー戦で二塁打を放った彼は、二塁到達までのスプリントスピードで30.4 ft/sec(1秒あたりのフィート数)を記録しました。
スプリントスピードは30 ft/sec以上であればMLB最高峰と言われ、今季のMLBで平均スプリントスピードが最も速いのはウィットJr.の30.5 ft/sec
このことからも30.4 ft/secを記録したデラクルーズの速さがうかがえますが、その翌日に三塁打を放った際はそれをさらに上回る30.9 ft/secを記録。
また、この三塁打は本塁から三塁までわずか10.83秒で到達し、これは今季のMLB全体で最速でした。

最後に紹介するツールである肩も、これまた規格外。
こちらも彼の異次元な記録を紹介します。

MLBにおける内野手の送球としての最速は、2022年にオニール・クルーズ(PIT)が記録した97.8mph(157.4km)です。
クルーズはデラクルーズの比較対象としてよく名前が挙がる選手で、デラクルーズより一回り大きい201cmの長身で爆発的な身体能力を誇ります。
クルーズが持っている計測上のMLB記録は2つあり、1つは打球速度122.4mph(197km)、そしてもう1つが上述の97.8mphの送球です。
デラクルーズは打球速度の最速こそまだクルーズの域に到達していませんが、肩は既にクルーズを上回る記録を出しています。

今季のマイナーリーグでデラクルーズが三塁を守っていた際に記録した送球の速度はなんと99.2mph(159.6km)
もちろんマイナーでの記録なので正式にクルーズ超えしたわけではないのですが、既にMLBの内野手で最高の肩を持っているということがわかります。

メジャーデビューまでのキャリア

こんなにわかりやすい凄さを持つプロスペクトなのに、昨年頃まで名前を聞いたことがなかったというファンも多いのではないでしょうか?
それもそのはず。実はデラクルーズはこの2年ほどで一気に名をあげた選手で、元々はそれほどエリートというわけではありませんでした。
ここではその野球キャリアを簡単に紹介します。

デラクルーズは野球強豪国ドミニカの南部にある人口3万人ほどの町で生まれました。
他のドミニカの子供たちのように野球に興味を持った彼は、最初テニスボールやゴムボールを打って遊ぶところから始まり、6歳のころにMLBの遊撃手になりたいという夢をかなえるために、親元を離れ遠方の野球コーチの兄弟の元へと移り住みます。
そして10歳になると、首都サント・ドミンゴにある野球アカデミーに通い始め、16歳の2018年7月に国際FAでレッズと契約。
念願のMLBへの第一歩を踏み出したデラクルーズですが、当時はそれほど評価の高い選手ではなく、契約金はわずか6万5000ドルでした。
これがどれほど安い金額だったか、比較対象として2018年の国際FAでトップ5評価を受けていた選手の契約金を見てみましょう。

ディエゴ・カルタヤ 250万ドル
マルコ・ルシアーノ 260万ドル
ミサエル・ユービナ 275万ドル
オレルビス・マルティネス 350万ドル
リチャード・ガヤルド 100万ドル

当時無名に近かったデラクルーズはこれらのトップ選手の数十分の一の契約金でプロ入りを果たしたのですから、その期待値が低かったことがわかります。
当時のスカウト談では、「他の選手に比べて大きくもなく、身体能力もそれほど高くなかった」とのこと。

彼は2019年に最下級のルーキーレベルに相当するドミニカのサマーリーグでプロ入り後初めてプレーすることになりますが、ここで残した成績は43試合で打率.285、1HR、OPS.733と平凡なものでした。
本来ならばこの後アメリカ国内のルーキーリーグにステージを移すことになるはずですが、新型コロナのパンデミックによりマイナーリーグが中止になったあおりを受けて長く試合に出場することができず、ようやくアメリカ国内でプロデビューできたのは2021年のことでした。
この時点でもまだ無名だったデラクルーズですが、パンデミックの間に身長が183cmから196cmへと急成長しており、ここから一気にスター街道を駆け上がることになります。

2021年にルーキーリーグで11試合で打率.400、3HR、OPS1.235を記録すると、シングルAに昇格後は50試合で打率.269、5HR、OPS.782とまずまずの活躍でシーズンを終えました。

そして2022年、A+でシーズンを開始した彼はややスロースタートながらもあるタイミングを境に突然打ち始め、73試合で打率.302、20HR、OPS.968、28盗塁の活躍で一気に名をあげます。
この時既に評価の高まっていた彼のプロスペクトランキングはレッズの2位、MLB全体50位にまで上昇しており、レッズの代表としてフューチャーゲームにまで選出される大出世を果たしました。
フューチャーゲーム後にAAに昇格した彼は、ここでも最初は苦しんだもののまた突然適応して打ち始め最終的にはAA47試合で打率.305、8HR、OPS.910、19盗塁を記録。
2022年シーズンはA+とAAあわせて120試合、打率.304、28HR、OPS.945、47盗塁でトッププロスペクトの地位を確実なものとしました。

既にMLB最高のプロスペクトの一人と認知されて臨んだ2023年は、開幕からAAAでスタートするとここでも序盤苦しみます。
しかし、5月に入るとまたしても適応に成功し、AAA38試合で打率.297、12HR、OPS1.031、11盗塁を記録したところでメジャー昇格を果たしました。

将来性

メジャーデビューしてからまだわずか3試合ですが、おそらく既にMLBファンの多くに彼の名は知れ渡っており、今後MLBを代表する選手の一人になる日も来るかもしれません。
彼のポテンシャルの高さは疑うべくもないですが、ポジションがどうなるかはまだ議論されているところです。
本人が幼少期から夢見ていたように、彼は遊撃手としてスターになることを望んでいます。
しかし、レッズのチーム事情としては彼のコンバートも視野に入ります。
レッズは近年のドラフトやトレードにより内野手のプロスペクトが非常に豊富になっており、反面外野のプロスペクトの層が薄いことから内野手をトレードして外野手を獲得する、あるいは内野手を外野手にコンバートするという噂が出ています。
デラクルーズが昇格した段階で既にレッズの内野は渋滞しており、ここからさらに1,2年で昇格が見込まれる内野手がまだ複数います。
チームとしては嬉しい悲鳴と言いたいところですが、デラクルーズはこういう事情から三塁手、あるいは外野手へのコンバートの可能性があります。
三塁手が彼にとってはベストポジションであるとは思いますが、外野コンバートのタティスやジャズが好守備を披露しているように、デラクルーズも外野へ転向した方が守備力が向上する可能性もあります。
これは彼の比較対象とされるパイレーツのクルーズも同じ問題に直面しており、将来的な外野コンバートの可能性があるとされています。

とはいえ現段階で守備位置が固定されることもないかもしれません。
ここまでのメジャー3試合では2試合を三塁手、1試合を遊撃手としてプレーしています。
しばらくはこの2つのポジションを状況に応じて守っていくことになりそうで、外野うんぬんはまだ先の話でしょう。

一つ確実に言えることは、どのポジションを守ったとしても彼には稀代のスーパースターになる素質があるということです。

*本記事の執筆において参考にさせていただいた記事
New phenom hits like Judge, runs like Trea, throws like no other

Who is Elly De La Cruz? What to know about the Cincinnati Reds’ buzz-worthy new playerhttps://www.cincinnati.com/story/sports/mlb/reds/2023/06/08/who-is-elly-de-la-cruz-cincinnati-reds/70302204007/

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