ついにワールドシリーズの対戦カードが決まりました。
ア・リーグの覇者ヒューストン・アストロズ対ナ・リーグの覇者アトランタ・ブレーブスです。
今回は、この2チームの特徴と今季の状態について解説していきます。
アストロズ
近年の球団史
ア・リーグを制したアストロズは、今季ア・リーグ西地区優勝を果たしたチームです。
2012年まではナ・リーグ中地区に所属していましたが、当時のアストロズはいわゆる”ドアマットチーム”で、2011-13年の3年連続で100敗を喫するようなチーム状況でした。
それ以前のクレイグ・ビジオやジェフ・バグウェルといったスター選手がいた頃はポストシーズン常連だった時期もありましたが、2009年頃からメジャーリーグに興味を持ち始めた私のようなファンには、アストロズと言えば弱小チームの代名詞のような存在でした。
しかし、結果的にはこの弱小時代に積み上げたもののおかげで、今の強いアストロズが出来上がることになりました。
2011年にジョージ・スプリンガー、2012年にカルロス・コレア、2015年にアレックス・ブレグマン、カイル・タッカーをそれぞれドラフト1巡目で指名。
これらのドラフト上位の若手がそれぞれスター選手へと成長したことで、2017年に2001年以来となる地区優勝を果たし、その勢いのまま球団初となるワールドシリーズ制覇を成し遂げました。
その後のアストロズは球団史上最高の黄金期を迎えており、2016年から今季まで5年連続でポストシーズン進出し、そのうち3回はワールドシリーズまで到達しています。
一方で、その輝かしい球団史に水を差すような出来事もありました。
2017年のアストロズがサイン盗みを行っていたという暴露が2019年になされると、MLBの調査の末、アストロズはサイン盗みの事実が認定され罰金と関係者の活動停止、さらには2020,21年のドラフト上位指名権はく奪という重い処分が下されました。
同様にレッドソックスもサイン盗みを行っていたとして処分が出ましたが、アストロズのサイン盗み手法が印象的だったこともあり、サイン盗みの代表格としてアストロズとその所属スター選手はダーティな印象になってしまいました。
参考記事:レッドソックスとアストロズが王手
今季のパフォーマンス
地区 | 勝 | 敗 | 勝率 | ALDS | ALCS |
---|---|---|---|---|---|
西地区優勝 | 95 | 67 | .586 | 3-1 | 4-2 |
得点 | 打率 | 本塁打 | 出塁率 | OPS | 盗塁 | 防御率 | 先発防御率 | 救援防御率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
863 | .267 | 221 | .339 | .784 | 53 | 3.78 | 3.63 | 4.06 |
1位 | 1位 | 9位 | 1位 | 2位 | 27位 | 7位 | 5位 | 15位 |
各成績の順位からわかる通り、今季のアストロズの最大の特長は強力な打線です。
MVP級のスタッツを残した選手はいないまでも、ヨーダノ・アルバレス、ホゼ・アルトゥーベ、カイル・タッカーの30本塁打トリオに加え、首位打者を獲得したユリ・グリエル、大谷翔平を除いてトップとなるWARを記録したカルロス・コレアらトップクラスの活躍をした選手が多数そろっています。
少数のスターに依存するのではなく、打線の核となる選手が複数いることが最大の強みで、穴になるのは捕手のマーティン・マルドナードくらいです。
しかし、得点力はあるものの機動力には欠けており、 毎年のように30盗塁を記録していたアルトゥーベも今ではパワーヒッター化したことで盗塁数が激減し、今季二けた盗塁を記録したのはタッカーただ一人です。
もちろんただ打線が強力なだけではここまで強いチームにはなりません。
投手力もリーグ上位の実力があり、以前のゲリット・コール、ジャスティン・バーランダーのような絶対的投手は不在でも、ザック・グレインキーのような大ベテランやランス・マッカラーズらを始めとする若手・中堅好投手が多数います。
絶対的ではないもののタレントがそろっていることで、先発ローテーションに大きな穴がないのが特長です。
タレント豊富な先発ローテーションに対して、やや不安定なのがリリーフ陣。
絶対的な信頼を置けるのは守護神のライアン・プレスリーくらいで、そのプレスリーも後半戦は前半戦ほど支配的な投球ができなくなっていました。
その弱点を補うためにシーズン途中に獲得したケンドール・グレイブマン、イミ・ガルシアらも、移籍後に成績が悪化するなど思い通りにはいきませんでした。
ブレーブス
近年の球団史
ナ・リーグを制したブレーブスは、今季ナ・リーグ東地区優勝を果たしたチームです。
1991年から2005年にかけて、ストライキのあった1994年を除き14季連続地区優勝というMLB屈指の黄金期を築き上げましたが、2006年以降はその勢いも失われ、2014-17年は4年連続で負け越すなど苦しい時期が続きました。
しかし、2018年に再び地区優勝を果たすとそこから今季まで4年連続で地区優勝と、再び黄金期を迎えようとしています。
強いブレーブス復活のきっかけとなったのは、ロナルド・アクーニャJr.、オジー・アルビーズといった若手の台頭でした。
今季大躍進を遂げたオースティン・ライリー、イアン・アンダーソンらのように、次々と有望な若手がメジャーで活躍するのが近年のブレーブスの特長です。
投手にも野手にも非常に若い有望株が複数いることで、今季だけでなく来季以降も未来が明るいと思わせてくれる陣容がそろっています。
今季のパフォーマンス
地区 | 勝 | 敗 | 勝率 | NLDS | NLCS |
---|---|---|---|---|---|
東地区優勝 | 88 | 73 | .547 | 3-1 | 4-2 |
得点 | 打率 | 本塁打 | 出塁率 | OPS | 盗塁 | 防御率 | 先発防御率 | 救援防御率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
790 | .244 | 239 | .319 | .754 | 59 | 3.88 | 3.84 | 3.97 |
8位 | 12位 | 3位 | 12位 | 8位 | 21位 | 8位 | 7位 | 10位 |
上述のように、若手が多数おり未来は非常に明るいチームですが、現状の戦力的にはアストロズにはやや劣ります。
そもそも、今季のブレーブスは地区優勝こそ成し遂げたものの、勝率.547というのは今回ポストシーズンに出場した全チームの中で最低の数値です。
両リーグワイルドカードの4チームをも下回っており、今季のナ・リーグ東地区自体がレベル的にやや劣っていたように思われます。
また、チームで一番のスターであるロナルド・アクーニャJr.をシーズン途中に怪我で失っており、戦力的には最良の状態ではありません。
それでも打線は非常に強力で、今季25本塁打以上を記録した選手がオースティン・ライリー、フレディ・フリーマン、オジー・アルビーズ、ダンスビー・スワンソン、アダム・デュバル、ホルヘ・ソーラーら計6人います。
高打率・高出塁率のアストロズに対して、ブレーブスはどこからでも一発が生まれる打線が魅力的です。
機動力に関しては、こちらも怪我で離脱しているアクーニャJr.を除けば二けた盗塁を記録したのはアルビーズのみということで、足でかき回せるチームではありません。
先発ローテーションには柱となる投手が3人おり、チャーリー・モートン、マックス・フリード、イアン・アンダーソンの三本柱はアストロズに全く劣らない強力なものです。
しかし数がそろっているとは言い難く、この3人以外にポストシーズンを任せられる先発投手がいないのが苦しい点です。
リリーフはタイラー・マツェックとルーク・ジャクソンがかなりの好成績を残しましたが、肝心の守護神ウィル・スミスがシーズンで6度のセーブ失敗に加え7敗するなど、いまいち信頼しきれない結果に終わりました。
ワールドシリーズの展望
これまでのポストシーズンでの活躍
レギュラーシーズンの成績だけみれば、戦力的にも経験的にもアストロズが上回っているように思えます。
しかし、ポストシーズンでは勢いやキープレイヤーの存在で、レギュラーシーズンの数字などは吹き飛んでしまいます。
アストロズはやはり打線が好調で、特にALCSのMVPを獲得したアルバレスの活躍が目立ちました。
しかしそれ以上に、元々打撃にあまり期待されていないマルドナード以外は絶不調の選手がいないということが大きいと感じます。
しかし先発投手に関してはかなり苦しくなっており、このポストシーズンで先発登板した中で好投したと言えるのはマッカラーズ、ガルシア、バルデスの3投手ですが、マッカラーズは故障によりワールドシリーズのロースター入りができるかは不透明です。
加えてガルシア、バルデスも最後の登板では活躍したものの、それまでは早い回で炎上していたため不安定さがあります。
しかし、安定しない先発投手陣に対して、意外にもうまく機能しているのがレギュラーシーズンでは少し足を引っ張っていたリリーフ陣です。
このポストシーズンに6登板以上している5投手のうち、ガルシア以外は全員防御率1点台と好投しています。
とはいえ結局のところ短期決戦で最も重要になるのは先発投手の出来です。
アストロズとしては好調のマッカラーズを失っているのが非常に大きな弱点となりそうです。
一方のブレーブスは、打線に好調の選手と不調の選手が極端に表れてしまっています。
主軸のフリーマンに加え、ロサリオ、ピダーソンといった途中加入組が好調でいい仕事をしています。
しかし他の選手の調子が上がってこないことで、好調の選手との勝負を避ければいいという状態が出来上がってしまっています。
これまでのポストシーズン全10試合でブレーブスが6点以上とったのはわずか1試合しかありません。
そのせいでブレーブスの勝ち試合は、その1試合を除き全て3点差以内というギリギリの戦いでした。
打線がつながらず、数少ない好調の選手は勝負を避けられがちとなってしまうと、自慢の打撃力を発揮できそうにありません。
先発投手陣はアストロズに比べると安定感があります。
しかしここまで10試合のうちモートン、フリード、アンダーソンの3投手が9試合に先発登板しており、疲労の蓄積が最大の敵になりそうです。
また、リリーフで最も頼りになるはずだったジャクソンがここまで8試合に登板して防御率9.00という有様で全く機能していません。
その代わりシーズンでは失敗の多かった守護神スミスがここまで無失点の好投を見せていますが、打線の調子がよくないだけにリリーフの安定感がシリーズの行方を左右しそうです。
ワールドシリーズのキープレイヤー
アストロズ、ブレーブスともに、先発投手の出来が最大のポイントになりそうです。
アストロズはバルデスがキープレイヤーになると考えています。
バルデスは敵地でレッドソックス打線相手に8回1失点の好投を見せました。
ブレーブス打線で好調なフリーマン、ロサリオ、ピダーソンは全て左打者ということで、左投手のバルデスが彼らを封じ込めればレッドソックス戦の再現もあり得ます。
ブレーブスはフリードとライリーがキープレイヤーなのではないでしょうか。
フリードは今季後半戦の防御率1.74という驚異的な投球をみせ、このポストシーズンでも3試合中2試合は6回を好投しています。
しかし最後の登板でドジャースにかなり打ちこまれており、その影響がどこまであるのか気になるところです。
しかし、レギュラーシーズン後半戦から彼が見せているパフォーマンスは驚異的なもので、このワールドシリーズに出場する中で最も安定感のある投手なのは間違いありません。
彼がエースらしい投球をすれば、2勝は堅いのではないでしょうか。
また、エースがフリードなら今季の打線の主役はライリーでした。
24歳の若さながら打率、本塁打、打点のチーム三冠王ですから、ここまで不調ではないにしても好調とは言い難い彼が爆発力を見せてチームを引っ張ることができるかがカギになりそうです。
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