パドレス打線に何が起こっているのか

MLB

シーズンの約1/4を消化した日本時間5月18日現在、開幕前には優勝候補とも言われたパドレスは20勝24敗の地区4位と予想外の不振に苦しんでいます。
その理由の大半は明らかに打線にあります。
そこで今回は、各スタッツを確認しながらパドレス打線の何が問題なのか探っていきたいと思います。

打線

チーム成績

得点 172 (27位)
打率 .226 (30位)
本塁打 46 (18位)
OPS .699 (22位)
出塁率 .317 (18位)
wRC+ 96 (19位)
四球率 11.1% (2位)
三振率 23.8% (ワースト10位)
BB/K 0.47 (3位) 
併殺 35 (ワースト8位)
BABIP .277 (26位)

数字を見ただけで問題点か明白で、特に解説する必要もないかもしれません。
ESPNは1月に”Way-too-early 2023 MLB lineup rankings“という記事を出し、パドレスがMLB30球団で最高の打線であると順位付けていました。当時この記事を読んだ私は過大評価であるとツイートしたのですが、そんな私でもタティスが加わればトップ5には入る打線だと信じていました。

また、開幕直前にはMLB公式が”The top 10 lineups for 2023 are …“という記事を出し、そこでも1位はアストロズとしながらも2位はパドレス打線であると予想。
このようにMLBの主な媒体がことごとくパドレスは強力打線であると認識していたわけですが、現実のスタッツはむしろMLB平均以下の打線であることを示しています。
特に打率の低さが顕著で、堂々のリーグワースト。四球を奪うことには長けているため出塁率はなんとか平均レベルの水準を保っていますが、いくら出塁が評価される現代MLBだからといってもここまで極端に打率が低いと話になりません。野球は打ってなんぼ。この再建チームのような打撃スタッツではどうあがいても得点が伸びないのは明白です。
逆に言えば、打率がもう少し上がるだけで得点力が劇的に改善されそうなポテンシャルも秘めています。

シチュエーション別

対右打率 .212 (30位)
対右OPS .674 (23位)
対右出塁率 .313 (20位)
対右wRC+ 90 (19位)

パドレスのスタッツは対戦することの多い対右投手のパフォーマンスの低さに起因しています。
対右のwRC+が100以上なのは、ソト 176、ボガーツ 151、カーペンター 106、クロネンワース 106、タティス 101だけで、スタメンに並ぶキム、グリシャム、マチャド、ノラらは全員70未満と非常に低調なパフォーマンスとなっています。

対左打率 .256 (15位)
対左OPS .751 (13位)
対左出塁率 .326 (14位)
対左wRC+ 109 (12位)

対右が低調な一方、対左はそれほど悪くありません。
wRC+はマチャド 166、グリシャム 163(意外にも)、タティス 153、キム 146、カーペンター 117、クロネンワース 101と高水準な打者が多くいます。しかし、左を得意としているはずのボガーツ 74、昨年から極端に左を苦手としているソト 72が上位打線で足を引っ張っている状況です。

得点圏打率 .196 (30位)
得点圏OPS .626 (29位)
得点圏出塁率 .293 (29位)
得点圏wRC+ 73 (29位)
得点圏四球率 11.3% (9位)
得点圏三振率 25.4% (ワースト2位)

今季ずっと言われていることですが、そもそもの打撃自体に問題があるのに加えて、最大の問題が得点圏での弱さです。
出塁自体はそれなりに出来ているおかげで、得点圏自体は少なくありません。しかしそのチャンスを全く活かせていないため、得点圏打席は425(15位)あるのに対し、得点圏打点は109(28位)しかありません。
主要な選手の得点圏の打率は、タティス .273、マチャド .243、ソト .214、キム .200、ボガーツ .175、クロネンワース .162、グリシャム .139と散々な状況です。

ビッグ4の現在

フアン・ソト
Baseball Savantより

パドレスで辛うじて今最もホットな野手と言えるのがソト。4月には大不振に陥っていましたが、5月に入ってからは彼らしいパフォーマンスで一時はOPS.900にも到達しました。残念ながらここ数試合は再び下降気味で、また数字が落ちつつあります。
スタッツ上は今季のパドレスで最も活躍しているソトなのですが、昨季から続く弱点が全く改善されていません。

弱点①は対左の弱さ
対右では.295/.444/.571という素晴らしいパフォーマンスを見せる一方で、対左は.160/.311/.260とチーム最弱打者となってしまいます。マチャド、タティス、ボガーツら右の強打者が揃う上位打線においてソトが高確率でブレーキになってしまうのが問題です。2021年までは左を極端に苦手としてるわけではなかったのですが、昨季から対左成績は大きく悪化しており、今季もそれを改善できないどころか更に悪化しています。

弱点②は得点圏の弱さ
今季の得点圏での成績は.214/.421/.321と低調で、HRは1本も打てていません。こちらも昨季から続く傾向で、2021年は.396/.577/.689とチャンスでボンズ並の強打者だったにも関わらず昨季は.204/.384/.340と一気にパフォーマンスが低下しました。得点圏での成績はサンプル数が少ないので一年程度ではそれほど信頼性が高くありませんが、実際のプレーを見ているとヒッティングよりも四球を選ぶことを優先しているかのように感じます。

打者としてのポテンシャルが最も高いソトの復活はパドレスがポストシーズンを狙う上で必要不可欠ですが、現状まだ明確な弱点が見えています。極端な引っ張り傾向と、四球を狙いすぎなアプローチが問題なのではないかと思いますが、今季中にはなんとか克服してもらいたいところ。個人的には上述の得点圏の問題があることからも1番打者でノビノビ打ってもらったらいいのではないかと感じますが、タティスがいるのでそれは難しいかもしれませんね。

マニー・マチャド
Baseball Savantより

今季パドレスファンが最も失望しているのがマチャドでしょう。
昨季はMVP2位という輝かしい活躍を見せ、オフシーズンにはオプトアウトを宣言しながらも11年$350Mという巨額契約に合意しキャリアをサンディエゴで全うする可能性が高くなりました。
大いに期待のかかる今季でしたが、ふたを開けてみればキャリア最悪の不振に見舞われています。
安打もHRも全くでないわけではないものの、ハードヒットが激減するなど主軸としてはかなり物足りません。
その上先日のロイヤルズ戦で死球を受けた際に骨折していたことがわかり泣きっ面に蜂。
私はマチャドならどこかで別人のように打ち始めるだろうと思っているのですが、既にマチャドとの契約延長は大失敗だったと嘆くファンは少なくないでしょう。
守備が良いのがまだ救いですが、とにかく骨折を治して万全の状態で昨年並みに打ち始めることを祈るばかりです。

フェルナンド・タティスJr.
Baseball Savantより

開幕から20試合の出場停止ということで、彼が戻ってきたらパドレスが完全体になる。そう思っていた時期もありました。でも別にそれはタティスのせいではありません。
彼は相対的にパドレスの中ではソトに次ぐパフォーマンスを見せています。
意外だったのは守備で、スプリングトレーニングでボールの追い方に危うさを見せるなど外野守備の向上には時間がかかると思われましたが、ここまではGG級のパフォーマンス。肩の強さは流石で、三塁やバックホームでストライク送球をして刺すシーンも見られました。
守備に関しては大満足の一方で、打撃はちょっと気になる点も。元々空振りも多いしボール球にも比較的手を出す選手ではありましたが、今季は四球がかなり少ない。2020-21年で10%を超えていた四球率は今季5.4%と低調です。
走塁で数字に表れない高い貢献をしてくれるシーンが多いので、足を活かすためにももう少し塁に出てもらいたいところ。まあHR打ってくれるのが一番ありがたいんですが。

ザンダー・ボガーツ
Baseball Savantより

11年$280Mの鳴り物入りで加入した最初の一ヶ月は素晴らしい活躍でした。4月にチームが勝ち越しできたいのは彼のおかげです。
しかし、今やその勢いはありません。
5月前から調子を上げてきたソトと入れ替わるように打撃が失速。4月に6本打ったHRも5月に入ってからは1本も打てておらず、今月のOPSは.587と絶不調。

例年得点圏と対左に強いところが大きな魅力でしたが、今季はその両方とも失われています。思っていたより守備が良かったことは救いですし、選球眼もいいのですが、とにかくいい場面で打ってくれない。チャンスでまわってきてハードヒットするようなシーンを見せてくれません。

思うところ

とにかく打率を上げましょうという話なのですが、気になるのはあっさり追い込まれることが多い点(体感)。
どんな大打者でも2ストライクになってからは打率が極端に落ちるものです。
例えばタティスやマチャド、キム、クロネンワースは早いカウントから甘くないボールに手を出して追い込まれてしまうことが多い印象。
一方でソト、カーペンターあたりは2ストライクからでも際どいボールも見逃して三振になることが多いような気がします。
積極性と待球のバランスが一番とれているのがボガーツだと思いますが、ハードヒットが少ないのが問題。
結局のところ、それぞれが一度アプローチを見直す必要があるのかなと感じます。そんなことはもちろん打撃コーチらがやっているのでしょうけど、これほどのタレント揃いでここまで歯車が噛み合わない状況も珍しい。何かきっかけがあれば一気に好転するような気もしますが、本来はタティスの復帰がそのきっかけになるはずでした。
今季マイナーから上がってくるような強打のプロスペクトもいませんし、そうなるとやはり監督解任などの荒療治しかないのか…

昨年似たような状況になったフィリーズが、22勝29敗でジラルディ監督を解任し、後任のトムソン監督は65勝46敗とチームを大きく変えてワールドシリーズに導きました。
そんなにうまくいくことはほとんどないのですが、何かを変えないと今の打線のままだとポストシーズンにすら到底届きそうにありません。
今もまだ私は最後にはドジャースを下して地区優勝してくれると信じているのですが、この調子で5月が終わるようだと雲行きが怪しくなってきますね…

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