歴史的な投高打低の影響か、4月に2度、5月に4度と二か月で6度ものノーヒットノーランが記録されたMLB。
6月も引き続き量産かと思われましたが1度だけしか達成されませんでした。しかも、それは4投手の継投によるもので単独投手によるノーヒッターは0です。
6月以降、大谷翔平含め何人かの選手が本塁打を短期的に量産するということが起こりました。
最も象徴的だったのはナショナルズのカイル・シュワーバーで、彼は6/19,20の二日間で5本塁打を放つと、その後も定期的に本塁打を量産し、結局10試合で12本塁打を記録しました。
印象的には、6月の、特に後半から打高傾向にあるように感じます。
6月に変わったことと言えばやはり6/21より開始された粘着物質取り締まり強化です。
今回は取り締まり強化が影響しているのか、そもそも本当に打高傾向にシフトしてきているのか、そのあたりをスタッツから分析していきたいと思います。
4~6月MLB全体スタッツ比較
4月のMLB全体スタッツ
打率 | 出塁率 | OPS | ISO | 本塁打率 | ハードヒット率 | wOBA |
---|---|---|---|---|---|---|
.232 | .309 | .698 | .157 | 28.8 | 31.2% | .305 |
「本塁打率」=1本塁打するのに何打席かかるかの指標
「wOBA」=1打席あたりにどれだけ得点に貢献したかの指標
この4月が打低シーズンの始まりでした。
単純に打率だけ見ても、2016年.255 2017年.255 2018年.248 2019年.252 2020年.245と過去5年間は.250前後の数字を出していただけに、打率.232というのは急激な打低傾向でした。
5月のMLB全体スタッツ
打率 | 出塁率 | OPS | ISO | 本塁打率 | ハードヒット率 | wOBA |
---|---|---|---|---|---|---|
.239 | .315 | .712 | .158 | 29.5 | 31.0% | .311 |
「本塁打率」=1本塁打するのに何打席かかるかの指標
「wOBA」=1打席あたりにどれだけ得点に貢献したかの指標
4月に比べるとやや打率など上昇しましたが、本塁打率やハードヒット率はむしろ低下しています。
やはり例年より打低傾向が続いています。
6月のMLB全体スタッツ
打率 | 出塁率 | OPS | ISO | 本塁打率 | ハードヒット率 | wOBA |
---|---|---|---|---|---|---|
.246 | .320 | .737 | .171 | 26.0 | 32.9% | .321 |
「本塁打率」=1本塁打するのに何打席かかるかの指標
「wOBA」=1打席あたりにどれだけ得点に貢献したかの指標
5月から全ての打撃スタッツが上昇。
顕著だったのは本塁打率が29.5 → 26.0と大幅に上昇していることで、それに伴いISOなど長打に係る指標も向上しました。
打率も例年並みに回復しており、6月に入って明らかな変化が起こったことがわかります。
粘着物質取り締まり強化の影響なのか?
これまで暗黙の了解とされてきた、MLBの投手による松脂などの粘着物質の使用。
特に滑りやすいとされるMLB公式球を使うためのやむを得ない手段で、あからさまでなければ黙認されてきたわけです。
しかし、一部の投手が「スパイダー・タック」と呼ばれる強力な粘着物質を使い投球の回転数を上げているなどの疑惑が浮上。
そういった事情からMLBはシーズン中に異例の粘着物質取り締まり強化を行いました。
リーグが各球団に調査を行っていることを伝えたのが6月初頭であり、その直後から一部の投手の回転数が下がったことが取沙汰されました。そして、取り締まり強化が発表されたのが6月半ば、実際に強化が開始されたのが6/21のことでした。
取り締まり強化(6/21~)のMLB全体スタッツ
打率 | 出塁率 | OPS | ISO | 本塁打率 | ハードヒット率 | wOBA |
---|---|---|---|---|---|---|
.246 | .327 | .745 | .171 | 25.4 | 33.4% | .324 |
「本塁打率」=1本塁打するのに何打席かかるかの指標
「wOBA」=1打席あたりにどれだけ得点に貢献したかの指標
取り締まりが強化されてから実際に摘発されたのは、今のところマリナーズのヘクター・サンティアゴただ一人です。
6/21以降で5月までと比べてこれほどの差が出ているということは、やはり今季の投高打低には粘着物質の影響があったと考えてしかるべきなのでしょう。
例えば6/30の試合では二桁得点したチームが6つあり、そのうちブルワーズとナショナルズは15得点、ブレーブスにいたってはなんと20得点を記録しています。
これは取り締まり強化前には見られなかった傾向のように思いますから、やはり急激に打高へシフトしている印象です。
打高といってもそれは序盤に比べたらの話で、例年と比較するとまだやや打低であるといって差し支えないと思います。
MLBはできればより盛り上がる打高を望んでいますが、投手の進化がそれを許してはくれません。
大谷やタティスのようなスターをより多く生むためにも、様々な方策を考えているでしょう。
そのうちの一つとして考えられているのが、マウンドとホームの距離を引き伸ばすことです。
MLBは独立リーグを使って様々な新ルールをテストしていますが、個人的には今MLBに導入されているワンポイント禁止は好ましいと思っていません。
マウンドの位置を変えることに関しても賛否両論出るでしょうが、MLBのこういう先進的な動きがStatcastなどの進化にもつながったことは事実です。
粘着物質の取り締まりが来季以降行われるのかも不透明ですが、とりあえずは打低解消のために功を奏しているようなので、後は無理をして投手に怪我人続出なんてことにはならないように祈ります。